失われた命、生まれた命

地面が揺れた。激しく上下左右に家ごと揺れたそれが新潟県中越地震だと知ったのはこの数年後。何もかもが壊れて崩れてゆきました。母は私を抱えてすぐに屋根が崩れてきても子を守れるように抱きしめてくれたのです。いえ、母のとっさの行動で守られたのは私だけじゃないのです。こんな時にもおなかの中で元気に動く男の子、すなわち私の弟を守っていたのです。

死者68名とされる地震のさなか母は臨月にはいっていました。
朝目が覚めるたびに今日は無事に母と弟が生きられるか不安に駆られていました。
避難生活は過酷で横になれる日が果たして何回あったことやら。
ほぼ車の中での寝泊まりがきつかったことは言うまでもありませんが体の小さな私で耐えるのがやっとだったあの生活は母にとっては生きたここちのしない日々たっただはず。
だから、最悪の事態を考えていたのでしょう。
ある日避難中の車の中で大きなはさみと貴重な2リットルの水、タオルを渡して言うのです。
「いい?ママはいつ赤ちゃんを産むかわからないの、だからこれを持っていて!もしお産が始まったらこれで赤ちゃんを取り上げて!」
「もし、ママが死んでも、命を諦めちゃダメ!あなたなら、できるから!」
幼い子供にはあまりに重い話でした。
母が死ぬことなんて考えたくない、駄々を捏ねたい。
でも、伝わったのです。
母の中で、今は守るべきもがあることが。
幼い私に託してでも、命を繋いでいくことを諦める姿を見せまいという意思を。

小さな私だからこそ、その先のことなんて考えませんでした。
この誰かの大切な人が生きられない時に
生まれてくる命があるならば
お姉ちゃんになる私が、やるべきことがあるのだ。
この日からずっと強く頷き命をつないでいく約束は、生きている者の役目に思えてなりません。

約束から間もなく陣痛は始まり陣痛中も大きな地震が何度も襲う中、運よく母は産院で出産。命をこの世に紡ぐ母と本当に生まれてきた弟にはきちんと体温があって安堵しました。命がこんなにも幸せな温度であることを知ることができた私は幸せ者だと感じて誰かが亡くなったその町で被災時に命が産声を上げた奇跡に感謝しました。生きていこう。何があっても。誰かが失った明日を精一杯。
幼いはずの心が、そう誓った昔の話。

分類不能の職業
投稿時の年齢:24
新潟
投稿日時:2025年09月12日
ドラマの時期:
2004年
11月
4日
文字数:966

筆者紹介

何者かになりたい20代です。
二人の子供を育てています。

信じる心だけは失わないで生きていこう、その気持ちが何万回裏切られようとも、、、いつしか聞いた言葉を胸に息をしています。
そっと生きる中で出会った出来事を一つ一つ書いていきます。
それがいつかどこかでどなたかの役に立つことを願っています。

失われた命、生まれた命

地面が揺れた。激しく上下左右に家ごと揺れたそれが新潟県中越地震だと知ったのはこの数年後。何もかもが壊れて崩れてゆきました。母は私を抱えてすぐに屋根が崩れてきても子を守れるように抱きしめてくれたのです。いえ、母のとっさの行動で守られたのは私だけじゃないのです。こんな時にもおなかの中で元気に動く男の子、すなわち私の弟を守っていたのです。
死者68名とされる地震のさなか母は臨月にはいっていました。
朝目が覚めるたびに今日は無事に母と弟が生きられるか不安に駆られていました。
避難生活は過酷で横になれる日が果たして何回あったことやら。
ほぼ車の中での寝泊まりがきつかったことは言うまでもありませんが体の小さな私で耐えるのがやっとだったあの生活は母にとっては生きたここちのしない日々たっただはず。
だから、最悪の事態を考えていたのでしょう。
ある日避難中の車の中で大きなはさみと貴重な2リットルの水、タオルを渡して言うのです。
「いい?ママはいつ赤ちゃんを産むかわからないの、だからこれを持っていて!もしお産が始まったらこれで赤ちゃんを取り上げて!」
「もし、ママが死んでも、命を諦めちゃダメ!あなたなら、できるから!」
幼い子供にはあまりに重い話でした。
母が死ぬことなんて考えたくない、駄々を捏ねたい。
でも、伝わったのです。
母の中で、今は守るべきもがあることが。
幼い私に託してでも、命を繋いでいくことを諦める姿を見せまいという意思を。

小さな私だからこそ、その先のことなんて考えませんでした。
この誰かの大切な人が生きられない時に
生まれてくる命があるならば
お姉ちゃんになる私が、やるべきことがあるのだ。
この日からずっと強く頷き命をつないでいく約束は、生きている者の役目に思えてなりません。
約束から間もなく陣痛は始まり陣痛中も大きな地震が何度も襲う中、運よく母は産院で出産。命をこの世に紡ぐ母と本当に生まれてきた弟にはきちんと体温があって安堵しました。命がこんなにも幸せな温度であることを知ることができた私は幸せ者だと感じて誰かが亡くなったその町で被災時に命が産声を上げた奇跡に感謝しました。生きていこう。何があっても。誰かが失った明日を精一杯。
幼いはずの心が、そう誓った昔の話。
分類不能の職業
投稿時の年齢:24
新潟
投稿日時:
2025年09月12日
ドラマの時期:
2004年
11月
4日
文字数:966

筆者紹介

何者かになりたい20代です。
二人の子供を育てています。

信じる心だけは失わないで生きていこう、その気持ちが何万回裏切られようとも、、、いつしか聞いた言葉を胸に息をしています。
そっと生きる中で出会った出来事を一つ一つ書いていきます。
それがいつかどこかでどなたかの役に立つことを願っています。