思い出の家
2年前のある日。私は御葬式に参列していました。
亡くなったのは売主様。
久しぶりにお会いした息子様達にお悔やみの言葉を伝え、
最後の言葉を棺に向かってかけることができました。
この売主様との出会いは、家族愛に溢れたとても暖かい気持ちを私に与えてくれました。
売主様と初めてお会いしたのは約5年前。
亡くなった御主人様名義の財産として誰が家を相続するのか、
という相談を受けたのが最初でした。
お子様は2人いらっしゃるので、全財産の半分を売主様(お母様)。
残りの半分をお子様が分けることになります。
特に揉める話ではなかったのですが、困ったことがありました。
家の価値がとても高く、家以外の財産がなかったのです。
この場合、家に住む売主様(お母様)が家を相続し、
その代わりにお子様2人に現金を渡すことなります。
しかし、家の資産価値が高いためお子様に渡せる現金が
ありません。
(※例えば家の価値が1,000万ならお子様2人には500万となりますが、
5,000万円なら2,500万を現金で渡す必要があります。)
売主様が一旦全て相続しても良いのですが、
そうすると売主様が亡くなった時の相続税が
莫大になります。
残る手立ては一つ、思い出の家を売却しお金に換えるしかありません。
後日、家を売る覚悟ができました、と売主様から連絡がありました。
こういった話は不動産の仕事をしているとよくあります。
無慈悲に仕事と割り切って売ってしまうのが、一番収益は高いです。
ただ、人としてとても悲しい気持ちになります。
とはいえ、会社へ収益をもたらすのが私の役目でもあります。
考えた末、一つの提案をしました。
私達が家をまるごと購入し、お母様に賃貸をして貸す。
お母様は売却で得たお金を息子様に渡す。
これなら家に住み続けることができ、思い出の家も
壊さずにすみます。
売主様達はとても喜んでくださり、まだこの家に
住めるんだと、涙を流されていました。
その翌年、売主様であるお母様は突然の病気で寝たきりになってしまいました。賃貸契約を止めることもできましたが、息子様達が代わりに家賃を払い、家を維持されていました。
そして2年前。お母様は御逝去されました。
ついに途絶えた賃貸契約となりましたが、この話はまだ続きがあります。
家を取り壊し、新築を建てて販売することになったのですがなんと息子様の一人がそこを購入し、住むと申し出ました。
「あの家はなくなっても景色は変わらないですから」
息子様は嬉しそうにそう仰ってました。
家を買うためには誰かの不動産が売られたということです。
そしてその売却には、一つ一つ違ったエピソードがあります。
どんな仕事にも言えることですが、ただの仕事として割り切るよりも御家族に寄り添った仕事をしていく。
人生の豊かさは、こういった積み重ねで得られると思います。
色々なものに興味があり、取組みたいと思う性格です。
思い出の家