優しい歯医者さんとのひみつ

小学生の頃、私は歯医者に通っていた。生え変わったばかりの歯がガタガタとズレており、歯並びを治すために矯正をしていたからだ。

私は歯医者さんに行くのがとても楽しみだった。なぜなら、先生がとても好きだったからだ。いつも優しく出迎えてくれるし、私のしょうもない話を一生懸命聞いてくれる。
家では叱られてばかりだが、歯医者さんはいつも私のことを褒めてくれた。

施術は、着々と進んでいた。ワイヤー矯正の治療が終わり、透明なマウスピースを装着するという段階まで来ていた。私は、このマウスピースが好きだった。自分だけの歯型で作られた、特別なものだったから。普通の子供は着けるのを嫌がると思うが、私はいつも意気揚々と装着して通学していた。


ある日、事件が起きる。歯医者さんに行く前に、お母さんと寄り道をした。
ウェンディーズに、ナゲットを食べに行ったと思う。おそらく学校帰りで、お腹が空いていたのだろう。

そして、楽しみにしていた歯医者さんにやって来た。施術台に座って、マウスピースを外そうとした。しかし、マウスピースが無いのである。私はその瞬間、「しまった!大変だ!」と思った。
なんと、ナゲットを食べる時にトレーの上に乗せて、そのままウェンディーズの大きなゴミ箱に捨ててしまったのである!歯医者さんに来るまで、気付かなかったのだ。
「どうしようどうしよう、お母さんに怒られる。」そんな風にとても焦った。
慌てている私に歯医者さんが、「どうしたの?」と声をかけてくれた。仕方なく、正直に全てを話した。お母さんに怒られないか心配だ、と。
すると、「じゃあ、一緒に探しに行こう。お母さんに内緒にするから。」と言ってくれた。

そして、歯医者さんと歯科衛生士さんと私の3人でウェンディーズに行って、ゴミ箱を漁った。
ファストフードの強烈な臭いが充満する中、歯医者さんは、嫌な顔を全くせず一生懸命探してくれた。探すにあたって、医療用のゴム手袋が大活躍したのを覚えている。

15分ぐらいは探しただろうか。歯医者さんが「あった!」と私のマウスピースを見つけてくれた。「助かった。」と思った。

無事に、一緒にクリニックに帰った。歯医者さんはマウスピースを綺麗に消毒してくれた。そして約束通り、この事件のことはお母さんに内緒にしてくれたのだ。


私は15年経った今でも、この「ひみつ」を守っている。
歯医者さんは小学生の私をバカにせず、対等に向き合ってくれた。そして、ちゃんとひみつを守ってくれた。

そんな優しい歯医者さんのことを、ずっと忘れない。事件があったウェンディーズは、もう無くなってしまったけど。
ウェンディーズのあった場所の前を通るたびに、少しヒヤヒヤして、そして温かい気持ちになる。
素敵な歯医者さんと出会えて、とても感謝している。

サービス職業従事者
投稿時の年齢:25
東京
投稿日時:2022年08月15日
ドラマの時期:
2006年
--月
--日
文字数:1189

筆者紹介

東京都在住の25歳女性です。教育熱心な親の下で育ちました。上へ上へという思考で高校・大学と進み社会に出ましたが、体を壊したことをきっかけに自分の価値観を見直すようになりました。今では「無理をしない・楽しく生きる」をモットーに、カフェでのんびり働いています。
趣味は愛犬の世話・サイクリングです。

優しい歯医者さんとのひみつ

小学生の頃、私は歯医者に通っていた。生え変わったばかりの歯がガタガタとズレており、歯並びを治すために矯正をしていたからだ。

私は歯医者さんに行くのがとても楽しみだった。なぜなら、先生がとても好きだったからだ。いつも優しく出迎えてくれるし、私のしょうもない話を一生懸命聞いてくれる。
家では叱られてばかりだが、歯医者さんはいつも私のことを褒めてくれた。

施術は、着々と進んでいた。ワイヤー矯正の治療が終わり、透明なマウスピースを装着するという段階まで来ていた。私は、このマウスピースが好きだった。自分だけの歯型で作られた、特別なものだったから。普通の子供は着けるのを嫌がると思うが、私はいつも意気揚々と装着して通学していた。

ある日、事件が起きる。歯医者さんに行く前に、お母さんと寄り道をした。
ウェンディーズに、ナゲットを食べに行ったと思う。おそらく学校帰りで、お腹が空いていたのだろう。

そして、楽しみにしていた歯医者さんにやって来た。施術台に座って、マウスピースを外そうとした。しかし、マウスピースが無いのである。私はその瞬間、「しまった!大変だ!」と思った。
なんと、ナゲットを食べる時にトレーの上に乗せて、そのままウェンディーズの大きなゴミ箱に捨ててしまったのである!歯医者さんに来るまで、気付かなかったのだ。
「どうしようどうしよう、お母さんに怒られる。」そんな風にとても焦った。
慌てている私に歯医者さんが、「どうしたの?」と声をかけてくれた。仕方なく、正直に全てを話した。お母さんに怒られないか心配だ、と。
すると、「じゃあ、一緒に探しに行こう。お母さんに内緒にするから。」と言ってくれた。

そして、歯医者さんと歯科衛生士さんと私の3人でウェンディーズに行って、ゴミ箱を漁った。
ファストフードの強烈な臭いが充満する中、歯医者さんは、嫌な顔を全くせず一生懸命探してくれた。探すにあたって、医療用のゴム手袋が大活躍したのを覚えている。

15分ぐらいは探しただろうか。歯医者さんが「あった!」と私のマウスピースを見つけてくれた。「助かった。」と思った。

無事に、一緒にクリニックに帰った。歯医者さんはマウスピースを綺麗に消毒してくれた。そして約束通り、この事件のことはお母さんに内緒にしてくれたのだ。

私は15年経った今でも、この「ひみつ」を守っている。
歯医者さんは小学生の私をバカにせず、対等に向き合ってくれた。そして、ちゃんとひみつを守ってくれた。

そんな優しい歯医者さんのことを、ずっと忘れない。事件があったウェンディーズは、もう無くなってしまったけど。
ウェンディーズのあった場所の前を通るたびに、少しヒヤヒヤして、そして温かい気持ちになる。
素敵な歯医者さんと出会えて、とても感謝している。
サービス職業従事者
投稿時の年齢:25
東京
投稿日時:
2022年08月15日
ドラマの時期:
2006年
--月
--日
文字数:1189

筆者紹介

東京都在住の25歳女性です。教育熱心な親の下で育ちました。上へ上へという思考で高校・大学と進み社会に出ましたが、体を壊したことをきっかけに自分の価値観を見直すようになりました。今では「無理をしない・楽しく生きる」をモットーに、カフェでのんびり働いています。
趣味は愛犬の世話・サイクリングです。