世界一美味しい飲み物
今まで飲んだ中で、最高に美味しいと感じたものはなんだろうか。私には、忘れられない味がある。
「暑い夏の、部活帰りに飲んだカルピスソーダ」だ。
中学生の頃、かなりきつい運動部に入っていた。ありがたいことに、全国大会で毎回入賞するほどの強豪校。練習も規律もそれなりに大変だった。朝練・昼練・放課後練、そして土曜は朝から夜まで練習という日々だった。走って移動しないと先輩に怒られるし、声出しをちゃんとしてないと目を付けられる。今の時代では考えられないが、顧問が怒って暴言を吐くみたいなことも日常茶飯事だった。
特に、夏休みの練習は地獄。授業がないために、週5で1日中部活だった。疲れ果てて、帰りの電車で寝落ちすることもしばしばだった。
そして驚くべきことに、学校の体育館は冷房が効かなかった。よく熱中症患者が出なかったと思う。暑い中で朝から晩まで練習して、家まで1時間かけて帰宅する。それがルーティーンだった。
当然お腹も空く。しかし、学生なのであまりお金がなかった。家には大量のお菓子のストックがあるので、いつもは買い食いを我慢して帰宅していた。
ある日どうしようもなく疲れて、お腹が空いていたことがあった。何か口に入れないと倒れそう。そんな時、駅の自動販売機を見つけた。そこでカルピスソーダを買った。
カルピスを飲んだ途端、体が生き返るのを実感した。カルピスの甘さと独特な乳酸菌の感じが、なんとも言えなかった。シュワシュワとした炭酸が、疲れた体を刺激するのだ。
「こんなに美味しかったっけ。」そう思うほど、感動的な美味しさだった。
あれから10年以上経った。高いコーヒーやお酒も、自分で買うことができるようになった。しかし、あんなに美味しい飲み物に出会ったことがない。
暑い暑い渋谷駅のホームで飲んだ、カルピスソーダ。あの美味しさは、過酷な部活を乗り越えた自分への、神様からのプレゼントだったのかもしれない。
東京都在住の25歳女性です。教育熱心な親の下で育ちました。上へ上へという思考で高校・大学と進み社会に出ましたが、体を壊したことをきっかけに自分の価値観を見直すようになりました。今では「無理をしない・楽しく生きる」をモットーに、カフェでのんびり働いています。
趣味は愛犬の世話・サイクリングです。
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