私とシロアリとの果てしない戦いは?

6年前の夏のことです。築30年の我が家に初めて羽アリが発生し、シロアリの存在が確認されました。
これは一大事だと、慌てて、シロアリ駆除業者に依頼し、現調をお願いしました。立て続けに3社が現調に来て、床下収納庫を取り外し床下に潜りシロアリの発生状況を調査してくれました。
いずれもシロアリが1か所の基礎下から這い上がり土台を経由して上に向かっているとの見立てでした。
このまま業者に任せればよかったのですが、この目で確認したいという衝動にかられ、それが高じてこの手で退治しようというとんでもない決断をしてしまいました。
ちょうど定年退職し、次の仕事まで間があり暇をもてあましておりましたので、格好のレクリエーションになりました。

まず、戦う前の下準備です。
床下のスペースは狭く、這うことすらできません。ほふく前進あるのみです。向きを変えることもできません。前進したら帰りはそのままあとずさりです。ですから、つなぎの服が必要です
床下は薄暗く、虫の死骸、木材のきれっぱし、コンクリートのかけら、新聞紙・チラシなどの紙類、それらが埃まみれの状態で散在しています。ですから、防塵マスク・ヘッドライト・ゴーグル・被り帽子を揃えました。
さらに、重要なのは掃除機です。床下のコンクリート土間上をまず掃除し、最も大事な仕事である「シロアリの掃除機による吸引」です。

いよいよ、つなぎを着て床下に潜入です。床下収納庫を外し中に入ります。そこには初めての世界が広がっていました。そこから、体をどのように曲げたり伸ばしたりしてよいのか見当がつきません。長い間の生活習慣で床に這いつくばるという行為に抵抗感があります。しかも、床下は束石があったり木の桟が縦横に高さを変えながら配置されていて通過するための難所がいくつかあります。シロアリにたどり着く前に断念しそうです。
しかしながら、腹ばいになって動くコツもだんだん習得し上方をのぞきたいときには体を半回転し仰向けになります。「胃のレントゲン撮影時こういう動きを求められるな」と思いながら、床下での活動に見合った動きができるようになりました。

シロアリは目前でした。
事前の情報通り、潜入か所から数メートルのところにある立ち上がり配管に蟻道と呼ばれるシロアリの通り道がありました。それはうまくルートを作りながら土台から造作材へと続いていました。
その蟻道をつついてみました。
いました。いました。おびただしい数のシロアリがいました。光に弱いと見えて、蟻道を破壊して姿が露呈するとたちまち隠れようとして右往左往します。それを掃除機で吸い取ります。視界にある蟻道をすべて破壊し出てきたシロアリを掃除機にて吸い取りさらに、隠れたであろう土台上及び土間のコンクリートの隙間に駆除剤を振り撒きました。
一日の作業は終わりました。
といっても、1回の稼働時間は10分程度です。帽子・メガネ・防塵マスク・首にタオル・つなぎ服のいでたちで暑さと酸素不足で苦しくなってきます。床下で呼吸困難になったら帰還できません。そんなリスクを背負いながら必死に闘っています。
ふと、シロアリと格闘している自分を想像しました。どんな顔をして掃除機で吸っているんだろう?どんな目をして駆除スプレーをかけているんだろう?

次の日、またどこかに蟻道を作っているだろうかと興味津々で床下に潜りました。案の定、昨日とは異なるルートで蟻道が構築されていました。そして、その中をせっせとアリたちは群れを成して行進しています。私が破壊したものを一晩で築き上げていることに敬意を表するとともにこの戦いは長期戦になると覚悟しました。

何回か繰り返しているうちにありの侵入箇所は1か所であることに気が付きました。
木造の家屋で床下は防湿コンクリートといって土のままだと湿気が上がってくるのを防ぐために土間にコンクリートを流しています。構造的なものではないので、ただ均してあるだけの粗末なものです。その中に様々な種類の配管が立ち上がっていてその1か所に土が見えるほどの隙間がありました。
彼らはそこから侵入していたのです。
ならば、そこを塞ぐことによって進入路を断つことができると考えました。この戦いを通して賢くなった私は
「ここを塞いでも、また他の穴を見つけて入ってくるに違いない」
「ならば、先回りしてコンクリートを見渡し,そういった隙間をことごとく塞げば、絶対に封じ込める」と確信しました。
「言うは易く行うは難し」とはよく言ったものです。
這いつくばっての作業は困難を極めました。大きい隙間はモルタルで、小さい隙間はコーキングで。これらは通常の環境では簡単な作業です。しかしここは床下の狭いスペースです。
モルタルを載せた板をもっていく事さえ至難の業です。悪戦苦闘の末、見たところ隙間はすべて塞ぎました。
「これで、もう入れないだろう!」と勝ち誇った気分でした。

次の日、恐る恐るのぞきました。

なんと、蟻道がどこにも見当たりません。
今まで何度処置しても翌日には何事もなく蟻道が作られ、その中をひたすら行進していたアリたちがいません。

翌日も翌々日もさらにその夏見ることはありませんでした。
「封じ込め」は見事成功です。狙いが功を奏したのです。

私は「シロアリ退治の武勇伝?」を家族や友人に声を大にして語りました。だんだんエスカレートして「シロアリの生態」までひけらかすようになりました。

そして、一年が経過し、また夏が来ました。そうです。シロアリの季節です。
少しばかりの不安を抱えながら、様子を見ました。
羽ありが飛んでいる様子はありません。昨年、姿を見せたあたりにも出てきている様子はありません。
床下を確認したかったのですが、何せ、床下収納庫を外して入らなくてはならず、外すためには中の物をすべて出さなければならず、それが億劫で、しかも、姿を一度も見ていないという事もあり「大丈夫だ」との判断をしていました。

それでも、この目で確認したいと思い、ある日、念のためにのぞくというスタンスで床下に入りました。

目に入った光景は、昨年、初めて床下に入り見たそれでした。見事に蟻道が築かれていました。

管理的業務従事者
投稿時の年齢:70
千葉
投稿日時:2022年10月08日
ドラマの時期:
2016年
7月
--日
文字数:2608

筆者紹介

現在70歳の高齢者です。現役時代は「家庭を守る」「家族を守る」という大義名分の中で埋没していた自己が今自由自在に飛び回っています。仕事もしていますが、やりたいように、言いたいように活きています。
出会いを大切にしています。人と大いに絡みながら高め合っていけたら素晴らしいと考えます
それは家族であり、友達であり、仕事関係の人であったり、老いてからの知人もいます。
関わることで、何らかの力になったりなってもらったり寄り添える人間関係でいたいと思います。
趣味は掃除です。特に浴室の掃除は一年365日欠かしたことはありません。基本は化学的手法より物理的手法を好みます。結果としてよりきれいになることより、耐久性を重視します。それは薬液処理よりもこすり洗いの方が壁・床・浴槽の変色等のリスクが少ないという事です。
発端は、リタイア後、妻の喜ぶことをしようとして思い立ったのがこれでした。妻はお風呂好きで毎日の楽しみとしています。長い間お世話になった恩返しにせめてきれいなピカピカ?の
お風呂に入れてあげたいとの想いでした。

私とシロアリとの果てしない戦いは?

6年前の夏のことです。築30年の我が家に初めて羽アリが発生し、シロアリの存在が確認されました。
これは一大事だと、慌てて、シロアリ駆除業者に依頼し、現調をお願いしました。立て続けに3社が現調に来て、床下収納庫を取り外し床下に潜りシロアリの発生状況を調査してくれました。
いずれもシロアリが1か所の基礎下から這い上がり土台を経由して上に向かっているとの見立てでした。
このまま業者に任せればよかったのですが、この目で確認したいという衝動にかられ、それが高じてこの手で退治しようというとんでもない決断をしてしまいました。
ちょうど定年退職し、次の仕事まで間があり暇をもてあましておりましたので、格好のレクリエーションになりました。

まず、戦う前の下準備です。
床下のスペースは狭く、這うことすらできません。ほふく前進あるのみです。向きを変えることもできません。前進したら帰りはそのままあとずさりです。ですから、つなぎの服が必要です
床下は薄暗く、虫の死骸、木材のきれっぱし、コンクリートのかけら、新聞紙・チラシなどの紙類、それらが埃まみれの状態で散在しています。ですから、防塵マスク・ヘッドライト・ゴーグル・被り帽子を揃えました。
さらに、重要なのは掃除機です。床下のコンクリート土間上をまず掃除し、最も大事な仕事である「シロアリの掃除機による吸引」です。

いよいよ、つなぎを着て床下に潜入です。床下収納庫を外し中に入ります。そこには初めての世界が広がっていました。そこから、体をどのように曲げたり伸ばしたりしてよいのか見当がつきません。長い間の生活習慣で床に這いつくばるという行為に抵抗感があります。しかも、床下は束石があったり木の桟が縦横に高さを変えながら配置されていて通過するための難所がいくつかあります。シロアリにたどり着く前に断念しそうです。
しかしながら、腹ばいになって動くコツもだんだん習得し上方をのぞきたいときには体を半回転し仰向けになります。「胃のレントゲン撮影時こういう動きを求められるな」と思いながら、床下での活動に見合った動きができるようになりました。

シロアリは目前でした。
事前の情報通り、潜入か所から数メートルのところにある立ち上がり配管に蟻道と呼ばれるシロアリの通り道がありました。それはうまくルートを作りながら土台から造作材へと続いていました。
その蟻道をつついてみました。
いました。いました。おびただしい数のシロアリがいました。光に弱いと見えて、蟻道を破壊して姿が露呈するとたちまち隠れようとして右往左往します。それを掃除機で吸い取ります。視界にある蟻道をすべて破壊し出てきたシロアリを掃除機にて吸い取りさらに、隠れたであろう土台上及び土間のコンクリートの隙間に駆除剤を振り撒きました。
一日の作業は終わりました。
といっても、1回の稼働時間は10分程度です。帽子・メガネ・防塵マスク・首にタオル・つなぎ服のいでたちで暑さと酸素不足で苦しくなってきます。床下で呼吸困難になったら帰還できません。そんなリスクを背負いながら必死に闘っています。
ふと、シロアリと格闘している自分を想像しました。どんな顔をして掃除機で吸っているんだろう?どんな目をして駆除スプレーをかけているんだろう?

次の日、またどこかに蟻道を作っているだろうかと興味津々で床下に潜りました。案の定、昨日とは異なるルートで蟻道が構築されていました。そして、その中をせっせとアリたちは群れを成して行進しています。私が破壊したものを一晩で築き上げていることに敬意を表するとともにこの戦いは長期戦になると覚悟しました。

何回か繰り返しているうちにありの侵入箇所は1か所であることに気が付きました。
木造の家屋で床下は防湿コンクリートといって土のままだと湿気が上がってくるのを防ぐために土間にコンクリートを流しています。構造的なものではないので、ただ均してあるだけの粗末なものです。その中に様々な種類の配管が立ち上がっていてその1か所に土が見えるほどの隙間がありました。
彼らはそこから侵入していたのです。
ならば、そこを塞ぐことによって進入路を断つことができると考えました。この戦いを通して賢くなった私は
「ここを塞いでも、また他の穴を見つけて入ってくるに違いない」
「ならば、先回りしてコンクリートを見渡し,そういった隙間をことごとく塞げば、絶対に封じ込める」と確信しました。
「言うは易く行うは難し」とはよく言ったものです。
這いつくばっての作業は困難を極めました。大きい隙間はモルタルで、小さい隙間はコーキングで。これらは通常の環境では簡単な作業です。しかしここは床下の狭いスペースです。
モルタルを載せた板をもっていく事さえ至難の業です。悪戦苦闘の末、見たところ隙間はすべて塞ぎました。
「これで、もう入れないだろう!」と勝ち誇った気分でした。
次の日、恐る恐るのぞきました。

なんと、蟻道がどこにも見当たりません。
今まで何度処置しても翌日には何事もなく蟻道が作られ、その中をひたすら行進していたアリたちがいません。

翌日も翌々日もさらにその夏見ることはありませんでした。
「封じ込め」は見事成功です。狙いが功を奏したのです。

私は「シロアリ退治の武勇伝?」を家族や友人に声を大にして語りました。だんだんエスカレートして「シロアリの生態」までひけらかすようになりました。

そして、一年が経過し、また夏が来ました。そうです。シロアリの季節です。
少しばかりの不安を抱えながら、様子を見ました。
羽ありが飛んでいる様子はありません。昨年、姿を見せたあたりにも出てきている様子はありません。
床下を確認したかったのですが、何せ、床下収納庫を外して入らなくてはならず、外すためには中の物をすべて出さなければならず、それが億劫で、しかも、姿を一度も見ていないという事もあり「大丈夫だ」との判断をしていました。

それでも、この目で確認したいと思い、ある日、念のためにのぞくというスタンスで床下に入りました。

目に入った光景は、昨年、初めて床下に入り見たそれでした。見事に蟻道が築かれていました。
管理的業務従事者
投稿時の年齢:70
千葉
投稿日時:
2022年10月08日
ドラマの時期:
2016年
7月
--日
文字数:2608

筆者紹介

現在70歳の高齢者です。現役時代は「家庭を守る」「家族を守る」という大義名分の中で埋没していた自己が今自由自在に飛び回っています。仕事もしていますが、やりたいように、言いたいように活きています。
出会いを大切にしています。人と大いに絡みながら高め合っていけたら素晴らしいと考えます
それは家族であり、友達であり、仕事関係の人であったり、老いてからの知人もいます。
関わることで、何らかの力になったりなってもらったり寄り添える人間関係でいたいと思います。
趣味は掃除です。特に浴室の掃除は一年365日欠かしたことはありません。基本は化学的手法より物理的手法を好みます。結果としてよりきれいになることより、耐久性を重視します。それは薬液処理よりもこすり洗いの方が壁・床・浴槽の変色等のリスクが少ないという事です。
発端は、リタイア後、妻の喜ぶことをしようとして思い立ったのがこれでした。妻はお風呂好きで毎日の楽しみとしています。長い間お世話になった恩返しにせめてきれいなピカピカ?の
お風呂に入れてあげたいとの想いでした。