チャーリー・パーカーの衝撃
私にはどうしても好きでたまらないミュージシャンが2名います。
一人目は言わずと知れたロックバンドのクイーン。
そしてもう一人が、ジャズ界最大の巨人の一人でありモダンジャズのスタイルを決定づけたと言っても過言ではない大天才、アルトサックス奏者のチャーリー・パーカー(1920~1955)です。
クイーンの音楽がとても親しみやすいのとは対象的に、パーカーの音楽は録音された年代が古いこともあり、批評家や演奏家の間での評価は非常に高く後世へ影響力も強いのにもかかわらず、普通に音楽が好きな人達にあまり受け入れられているとは言えません。
ですが、私にとって彼の演奏を聴く体験は人生が変わる程の衝撃であり、決して外すことができない「ドラマ」であるため、ここに書くことにしました。
私がパーカーの音楽を最初に聴いたのは、まだ中学生の頃だったと思います。
父が所持していた「チャーリー・パーカー・オン・ダイアル・コンプリート」(以下「オン・ダイアル」と略)という6枚のLPレコードで、パーカーの全盛期である1940年代の演奏を記録した大名盤なのですが、はっきり言ってその時の印象は最悪でした。
まず音質がボロボロで何をやっているのか全然わからない上に、1曲2~3分の短い演奏ばかり、さらに同じ曲の別テイクが延々と繰り返されて、全部聴くのは地獄のようでした。
その後、大学でジャズのビッグバンドに入ると、先輩達にすすめられて改めてパーカーのレコードやCDを聴くようになりました。
当時よく聴いていた「ウイズ・ストリングス」「ナウズ・ザ・タイム」といったアルバムは、先述の「オン・ダイアル」と比較すると録音された年代が新しくて、音質が良く聴きやすいのが特徴です。
特に「ウイズ・ストリングス」はサックスの音色と弦楽器の響きが美しくお気に入りでしたが、その年代はパーカーの絶頂期がすでに過ぎていたとも言われています。
さらに時が過ぎ、私は大学を中退して音大に入りなおし、厳しいレッスンを受けながら毎日嫌というほど色々な楽器(特に管楽器)の音を聴き続けることになるのですが、そういう生活を続けていると超一流の演奏家と普通の学生の音の違いがわかるようになってきますし、壁の向こう側で鳴っている音でも誰が出しているのかなんとなくわかるようになってきます。
そして、あるとき気まぐれで、CD化された「オン・ダイアル」を買って改めて聴いてみたのですが、そこで初めて、絶頂期のパーカーがあり得ないようなもの凄い音で演奏していたことに気づいたのでした。
人間離れした音の圧力でありながらなんともいえない艶やかな響きがあり、もしこれが生演奏であれば、最初の一音だけでその場の空気が変わることは間違いありません。
また、即興演奏というのはジャズの重要な要素の一つですが、延々と繰り返される別テイクでも彼は決して同じことはしていないと、その時はっきりわかりました。
楽曲の中に隠れている和音やビートを自在に引き出し、その中で自由に飛翔する力は神業です。
小節を埋めるために惰性で出したような音は一切存在せず、全ての音が意味を持っています。
全てのテイクが小さな作曲であり、それぞれが完成された作品になっていると言えるでしょう。
そして、繰り返しパーカーのCDを聴き続けていると、何故人間にこんな凄いことができるのかと考えるようになりました。
私が知っている限りでは、超一流のクラシック音楽の管楽器奏者でも、これ程の凄い音とテクニックの持ち主はただの一人も存在しません。
想像もつかないような量の練習の成果でもあるでしょうが、ここまでの凄さになるとそれだけの問題ではないように思えます。
結局、パーカーの演奏の凄さというのは、彼が背負っているものの大きさと深さなのだというのが、私が(未熟者なりに)たどり着いた答えです。
それは、奴隷制度や差別と偏見の歴史であったり、人間がもっと根源的に抱えているような孤独や悲しみであったり、その重さが、そのまま彼が演奏する一音一音の重さなのでしょう。
映画ボヘミアン・ラプソディは、クイーンのフレディ・マーキュリーが抱えていた深い孤独が描かれていて観る者の心を打ちますが、そういう孤独や悲しみを素晴らしい音楽に昇華させているところは、クイーンとチャーリー・パーカーの共通点だと思います。
彼らの音楽は、深い悲しみをたたえながらもユーモアがあり美しく、ポジティブで非常に強いエネルギーを発しています。
人生の中で、こういう素晴らしいミュージシャン達に出会えたのは本当に幸せなことです。
彼らの音楽を心の中に持ち続けることで世界は彩りに満ちたものになり、また、この先どんな困難なことがあってもきっと乗り越えていけるだろうという気持ちになるのです。
はじめまして、茨城在住の54歳男性です。
中学生の頃から音楽が大好きで、部活のブラスバンド、友人とのロックバンド、大学に入ってからはジャズのビッグバンド、と経験した挙げ句に音楽家を目指して音大に入り直したりしましたが夢はかなわず・・結局歳だけとってしまい、恥ずかしい人生をおくっております。
こんな私にも人生の大切な思い出はいくつかありますし、将来自分で読み返すことがあれば楽しいかなぁ、なんて思います。
よろしくお願いします。
チャーリー・パーカーの衝撃