中国での生活と目の前の拳銃
普通に日本に住んでいる人は、拳銃を生で見る機会はないだろう。
だが、私は一度だけ見た事がある。それも、銃口は目の前1センチくらいの超近距離。その時の事を思い出してみよう。
それは、今から二十数年前、私が中国の北京に留学していた時だった。
当時の中国は、今の中国と比べて物価も安く、日本円で30円もあればラーメンが食べられたし、数人で近所の食堂に行っても150円もあれば、そこそこ良い食事が出来た時代だった。
だが、留学といっても基本的に無駄遣いは厳禁。私は、あまり余裕のない学生だったため、普段の食事はそれなりに質素にしていた。
とはいえ、ときには気晴らしも必要。週末になると、周りにいた日本人や韓国人留学生と共に食事に出かけた。
当時、よく行ったのは「五道口」と呼ばれるところだ。
そこは、外国人留学生が多く集まり、韓国人街もあったため、頻繁に焼肉を食べに行った。
交通手段だが、たいていは友達と一緒にタクシーに乗り込んだ。所要時間は、私たちが住んでいた宿舎から30分ほどだ。
そこで焼肉を食べ、お酒を飲み、かなり酔った状態で帰るのだが、遅くなりすぎるとタクシーが捕まらない。
では、どうするかというと、白タクがいるのでそれに乗る。
ちなみに、白タクとは国から許可を受けていない不法タクシーの事である。一般の中国人も普通に使うので、金額交渉さえちゃんと行い、遠回りされないように気をつけていればほぼ問題はない。
その時も、そのつもりで乗ったのだが、いつの間にか寝てしまった。
とはいえ、一緒に乗った友達もいたので、通常なら寝てても問題はない。
でも、その時は「コンコンコンコン」という音で起こされた。
「うるさいなぁ」と感じながら目を開けると、タクシーの窓ガラス越しの目の前に、銃口が見えた。